写真は正午。昼飯を食べに行く男たち。この夏に撮ったもの。
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そうそうヒアリのニュースに触れて思い出したことがある。
それは大学生の時のこと、ぼくは川沿いのサイクリングロードを自転車で走っていた。
夕方。いつも通り道は空いていて、相当なスピードを出していた。
ところで、高校生の頃には自転車は現実逃避するための道具だった。
(↑大学受験を含め、色んなことからの逃避)
自転車に乗るとアドレナリンとエンドルフィンが溢れ出てどこまでも走れる気がした。
そんな時には周りの景色が自分の意識から切り離された現実離れしたものに感じられて
目に飛び込んでくる。そんな感覚を写真にできたら、と当時は思った。
それがいざ大学に入り膨大な自由時間が手に入った途端に自転車に乗っても高校生の頃の
酩酊感が味わえなくなった。現実逃避の必要が薄れたからだろうか?
ぼくは度々そのサイクリングロードへ行っては無闇に走った。
でもどうしてもその瞬間は来なかった。
その日も酩酊状態を味わえずに悔しい思いをしながらの帰りだった。
チクショー!と思いながら立ち漕ぎしていた、その時、バチッと頰に何かがぶつかった。
かなりの衝撃で驚いた。
立ち漕ぎのまま振り返るとそこにはスズメバチがいた。
スズメバチはそこでホバリングしているようで、まるでそこに浮かんでいるようだった。
蜂は体の向きをこちらに向けていて、お尻をクイッと上に持ち上げている。
ぼくは振り返ったままそれをじっと見ていた。
自転車は走り続けていた。
と、そのお尻の針からピューっと毒が吹き出したのだ。
その全てがスローに感じられた。
ぼくはスズメバチの大きさと攻撃する素早さに驚いた。
そしてもしかしたら追いかけてくるんじゃないかと思い、夢中でペダルを漕いだ。
※こんなことがあってからもう20年が経った。もしかしたら毒を飛ばされたのは
ぼくの記憶違いかもしれないと思い検索してみたら、やはり出てきた。
スズメバチはクマなどの敵に対する目潰しに毒を飛ばすそう。
悪いと失明してしまうとか。とても恐ろしい。
さて、改めてなぜ大学生になった当時のぼくが自転車に乗っても酩酊感を味わえなく
なってしまったのかを考えると、それはそもそもの周囲の景色の違いがあったのでは
ないかと思いついた。
高校生の頃に走り回っていた街は家々があり、その家を囲う塀があり、コンビニや
雑居ビルや学校があった。
それが大学の周辺は山に囲われていて、周りにあるものと言えば田んぼ、畑、川、
それから寺に古墳くらい。
サイクリングロードを走っていてもたまに出会うのは農家のお年寄りくらい。
そして遠くをローカル線がのんびり走って行く。そんなあまりにも健全な風景ばかり。
こんな景色の中にあっては視線は常に前を向いて、自分の居場所ははっきりする。
それが街中では視線が泳ぐ。ぐるぐる走り続けていると迷子になる。
教科書から顔を背けた高校生のぼくは迷子に憧れていたのかもしれない。
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秘密基地 その8
防空壕の中は真っ暗だった。
懐中電灯でその中を照らして見ると壁にも足元にもカマドウマがびっしり張り付いていた。
それが気持ち悪く、結局、自分たちの基地にすることを断念した。
しかも通りがかったおばさんには「土に溺れるのは水に溺れるよりも苦しいのよ」と
叱られたのだった。
でも何よりもショックだったのは防空壕の広さだった。
当時のぼくらではその防空壕に匹敵する・・たとえその半分以下でも・・基地を作る
のは不可能に思えたのだ。
それでぼくらは自力での秘密基地作りは諦めてしまった。
その代わりに大人の作った場所で基地になる場所を探し回って見つけたのが
道路の側溝・・排水溝・・だった。
その頃、ちょうど近所で大きな国道を作り始めていて、この道路の交差点にある側溝に
大ぶりな格子状の鉄網がかかっていた。
見下ろして中を覗く。
そこは四角く、コンクリート製で、秘密基地にぴったりに思えた。
鉄網に指をかけて引っ張る。
扉は開いた。
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続きはまた。