2016年8月8日月曜日

2016/08/08 サイレンとバスケットボール(その3)




写真は目黒区某所。
目黒は地名の由来が五色不動からなっているそうだ。
それは、目黒不動・目白不動・目赤不動・目青不動・目黄不動の五色だ。
目黒とはあまり縁がないけれど、この5箇所、いずれ回ってみたいと思ものだ。

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前回からの続きです。


12歳の夏休み。
早朝、ぼくは自転車の前かごにバスケット・ボールを入れて小学校へ向かった。
(当時小学校の校庭は解放されていた)
自転車で5分ほどの距離を誰ともすれ違うことがなくて、自分以外のすべての人が消えて
しまったのじゃないか、と錯覚するほど静かな朝だった。

小学校の校門は閉じていた。
自転車から降りると、体重をかけて押し開く。
サイレンが響いたのはその時だ。
まだ眠り込んでいる静かな街にそれが響き渡る。
サイレンの音の出所は、見回しても見上げても分からない。
白い校舎と、青い空と、緑の木々があるばかりで、ぼく以外の誰もいない。
その静まり返った朝の街にサイレンだけがガンガンと鳴り響く。
戦争が始まったと思った。

見上げた空には飛行機どころか鳥すら飛んでいないが、
サイレンは鳴り止まず、ぎゅっと胸が苦しくなる。
上から爆撃されたらどうしようもないけれど、「隠れなくちゃ」と
思い、旧校舎と新校舎を繋いだために出来た隙間にぼくは身を隠した。
なんで戦争なんてするんだ。なんでだ。なんでだ。怖い、と繰り返し思った。

ふと、サイレンが鳴り止む。とても静かだ。
誰一人、騒ぎ立てる人もない。
さあ、これから爆撃機が飛んでくるぞ。
ぼくは隙間に身を隠しながら構えている。
1分、2分。
静かだ。
静かだ。
そうか、、。
ぼく以外、みんなどこかへ避難してしまったんだ。
なんで、家を出る前に一言、親へ断らなかったのか、悔やまれる。
3分、4分。
、、まだ静かだ。

ぼくはそっと校舎の隙間から表へ出ると、校門から道路へ様子を伺いに行った。
やはり誰もいない。が、異常もない。
どこからか自動車のエンジン音が響く。
徐々に平常心が戻って行く。
ほっとした感情と恥ずかしさとがぼくの中で入り混じる。

広い校庭の奥にあるバスケットのゴールへ向かう。
何回かボールを投げる。
何回かが弾かれ、何回かがゴールへ吸い込まれる。
まだ人を見かけないけれど、どうやら戦争は無いようだ。
でも不安は残る。
この校庭の外側では日常の生活が送られているのだろうか。
それは自転車に乗って校門の外へ走り出るまで分からない。

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救急車や消防車では無いだろう。
今考えれば、きっと警察車のサイレンだったのだと思う。
この後ぼくは長い長い受験戦争に巻き込まれた。

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