2016年2月22日月曜日

2015/09/15 東京砂漠 写真スタジオ


前回からの続きを。

ぼくは写真スタジオのアシスタントをはじめて最初の1年間くらい、
何とも言えない孤独を噛み締めていた。
これまでと環境ががらりと変わって、甘えが一切受け入れられず、
嫌なら辞めろ、覚えられないなら辞めろ、って世界が新鮮でもあり、
つらくもあった。ってか、つらかった。

これまでより、頭も使わなきゃならなかったけれど、それ以上に
体力も必要で、腹が減る。
でも、自炊している余裕も無い。
だから外食で、めちゃくちゃ食べた。

その某中華チェーン店は1人客でも入りやすく、安いし、ボリュームも
あるから、そんなぼくにはちょうど良かった。

見事に男ばかりの店内で、様々な惨めさと、奇妙な安心感を覚えつつ
定食に食らいついていると、自動ドアが開いて新たな客が入って来た。
その客が、男性客だ、とその姿を認めた直後に突如店内が暗くなった。
店内すべての照明が消えたのだ。

驚いてぐるりを見回す。店外は街灯でオレンジ色に照らされている。
って、ことはブレーカーが落ちたのだな、と気がついた。
すると、店員(すべてアジア系の外国人)たちは慌てて母国語でやり取りを始めて、
ロウソクを抱えて来るとチャッカマンでそれに灯をともし、テーブルに立て始めた。

店員達は慣れない手つきで火をつけては、1本ずつロウソクを
立てて回る。

夏の夜。新宿にある某、中華のチェーン店。
大通り沿いのその路面店には、
ぼんやりとロウソクの明かりが灯された。

その可笑しさを誰も笑わず、開きっぱなしの自動ドアの前を
通る通行人達が、不思議そうに店内を除き見てゆく。
でも、お客達はそれに動じず、しばらくの間、
薄暗い店内で黙々と中華を口に運んでいた。

が、とうとう一人の客が「暑い暑い、何でロウソクなんだ!?」
ブレーカーだろ、ブレーカー。何でロウソクなんだ!
エアコン入れてくれ、エアコン。
と、店員に抗議を始めた。

女性ばかりの店員達は、おろおろしながらブレーカーを探し始める。
そこへ「大丈夫ですか?注文しても」、と新たな客が現れる。

ぼくは、この店内によくやって来たな、と感動した。

が、さすがに「いま、ちょっと待ってください」と言われる。が、
その客はロウソクに照らされた座席に落ち着く。

そんな中、ぼくは以前、アジアを旅したときのことを
ぼんやり、思い出していた。

でも、ここはアジアはアジアでも、東京なんだ。
それも新宿だ。

店の外は変わらず、慌ただしく、人々が行き交っている。

ほんのちょっとした出来事。
それを楽しめず、ただ黙々と、日々を送り続ける。
その頃のぼくには今日あったそんな出来事を、
誰かに伝える余裕すら無かった。

でも、今となっては、そんな日々ですら、かけがえが無い。

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

写真は新宿NSビル。天井を見上げたところ。
このビルに始めて入ったときのインパクトはとても大きかった。

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